南野 尚紀
村上春樹が1回だけ、ラジオでジュリー・ロンドンの曲を流したことがあった。僕は村上春樹のラジオをすべて聴いてるわけではないので、その回だけで流したかはわからないけど、僕が知る限り1回きりである。
なぜ村上春樹がジュリー・ロンドンについて、『ポートレート・イン・ジャズ』などで書かないかはなんとなくわかる気がするが、今回は敢えて彼女について書いてみようと思う。
ラジオで紹介された時は確か、「魅惑のセクシーのボイス特集」みたいな回に紹介された彼女。
いつ田舎に帰ってしまうかもわからない上京したてのお姉さん感が溢れるジュリーだけど、音楽の色気と言ったら他にはなかなかない。
特に僕がオススメしたいのは、アルバム『The End Of The World』に収録されている「I Remember You」。
このアルバム自体、名曲ぞろいで好きだが、特にこのジャズスタンダードナンバーを歌ってる時の彼女はステキだ。
まるで年下の男性をそやさしく見守るような歌たち。
日本語訳では、そのまま「私はあなたのこと覚えてる」だけど、歌詞の内容は今でもあなたのことだけを愛してると彼のことを追想する歌詞。
まったく知らないはずの女性のことなのに、なぜか懐かしいような、昔、好きだった女性たちと想いが繋がってるような、不思議な感じにとらわれる。
夜にこれを聴きながらウイスキーを飲んでると、宇宙を漂っている人工衛星のようにぽっかり夜に浮かんでるような気分になってしまう。
いつまでも離れたくなかった彼女との想いがずっと夜のどこかに漂っていて、それをふと捕まえて取り戻したかのようだ。
それは本当に自分の記憶の底にいた彼女に手を差し伸べるような感覚で、今でも彼女が好きなんだと気がつく瞬間。
次はいつ、彼女みたいな女性に会えるんだろう。早く会いたいよ。夜の底で待っていたのはあなたも僕も一緒。なんでこんな感覚の中を生きてるの? 生きてるのか死んでるのか、どこかいつもな現実感覚が掴めないような時の中で。それでも意識の底で会いに来てくれた。すべての夜は宇宙全我的で、いつも好きだと思える人々とつながってる。いつも夜でつながってる。
こんな感覚とジュリー・ロンドンの歌と村上春樹のラジオはつながってる。
僕が好きなだ『ダンス・ダンス・ダンス』もそうだ。
夜は宇宙全我的で、凡我一如。
この感覚が好きで彼のラジオをよく聴いてる。
この感覚が好きでジュリー・ロンドンのジャズが聴きたくなる。
了
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