南野 尚紀
村上春樹の『風の歌を聴け』の中盤には、主人公の僕にラジオ番組から突然、電話がかかってくるシーンある。
そこで僕は、ラジオのDJからいろんな質問をされるが、途中、「The Beach Boyの「California Girls」をリクエストした女の子がいる」と言われ、「名前を答えられれば、Tシャツをプレゼントする」と言われ、すんなり正答することに。
ビーチ・ボーイズはずいぶん、古いバンドなので、僕は聴いたことがなかったけど、ビートルズに似てるというのが第一印象だった。
1960年代に出てきて、1988年に解散して、その後和解し、活動を再開するこのバンドは、それまでの音楽とは違い気楽だったんだろう。
以前、村上春樹が好きな世代の人が言ってたのは、「こういう小説が読みたかったんだ」と村上春樹を読んで素直に思ったそうだ。
「退屈なラブソングと、憂鬱なジャズと」っていう歌詞が、ピチカートファイブの「ハッピー・サッド」っていう曲があるけど、まさにあんな感じだ(もちろん、村上春樹はかなりジャズは意識していたが)。
つまり、読みやすくて、素直で、オシャレで、どこか哲学めいてて、芯もしっかりしてるっていう小説だと思うけど、ビーチ・ボーイズも音楽の世界に気楽な風を通したという意味では、村上春樹に似ている。
ではなぜ、このタイミングで「California Girls」なのか。
それは村上春樹がこの小説で会う女性の中に、14歳で亡くなった3番目に寝た女の子と、「みんな大嫌いよ」と言い、宇宙のエネルギーはどこからきてるかわからないと話してる時に、「ねえ、私が死んでも100年もたてば、誰も私の存在なんか覚えてないわね」という女性が出てくるけど、その2人と恋人としては離別をしなくてはいけないということで、この曲が流れているんじゃないかと思う。
歌詞の内容がそうだからだ。
愛に別れを告げるとか、海にいるあの女の子が運命だとか、そういう内容を含んでることからそれは明らかで、村上春樹の自然消滅的悲劇の幕開けに相応しい曲なのだろう。
別に運命の人と結婚するも自由だし、3番目に運命の人というのが僕にはいて、その人と結婚したいと思ってるけど、そう考えると、村上春樹の『風の歌を聴け』は恋愛小説なんだなってことだ。
愛に関係のない小説なんて僕は読みたくないけど、この小説で描かれた愛もまた愛のひとつの形だし、おそらく主人公の僕は、三番目に寝た女の子が本当に好きだったんじゃないかと思う。
根拠はない。
でもそんな気がする。
僕個人は、「みんな大嫌い」って、堂々と言う悲劇の女性、好きでたまらないなぁって思うけど。
了
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